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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)25号 決定 1964年5月07日

抗告人 山本文男(仮名)

相手方 佐藤邦子(仮名) 外三名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は、「原審判を取消す。本件を千葉家庭裁判所に差戻す。」との裁判を求め、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

抗告理由書の一および二の抗告理由について。

原審判は、被相続人を山本一郎とする本件相続財産中の農地および抗告人が右被相続人から生前贈与を受けた農地については、いずれも宅地見込地として評価するのが相当であるとして、本件記録中の鑑定人渡辺清一郎の鑑定書の宅地見込地としての評価額に従い、本件相続財産の価額を金一六七八万六、五〇〇円、抗告人の受けた生前贈与の価額を金五二四万四、五〇〇円、右合計金二二〇三万一、〇〇〇円と評価し、これを山本一郎の子である抗告人および相手方ら五名の相続人に配分すると、一人当り金四四〇万六、二〇〇円となるから、抗告人は一人当りの右配分額よりも多額の生前贈与を受けていることとなり、もはや本件相続財産に対して相続分がないと判示していることおよび上記鑑定書中の農地としての評価に従えば、本件相続財産の価額は金五七二万一、〇〇〇円、抗告人の受けた生前贈与の価額は金六六万六、五〇〇円右合計金六三八万七、五〇〇円となり、これを五名の相続人に配分すれば、一人当り金一二七万七、五〇〇円で、これより抗告人の受けた生前贈与の価額を控除してなお抗告人は金六一万六、〇〇〇円の相続分があることとなることは、いずれも抗告人の主張するとおりである。

抗告人は、「遺産分割に当り相続財産を換価して金銭による配分を行なう場合は別として、本件のように宅地および農地を現物で分割する場合には、農地は農地としての現実の姿の現在の価額によるべきであつて、殊に農地は農地法の制約を受けて自由に宅地に変更することが許されないので、たとえ附近が宅地化しているとしても、現状が農地である以上その正当な客観的価額は農地としての評価に従うべきものであるから、将来の仮装的見込価額による本件農地の評価を基礎として遺産分割をなした原審判は合理的根拠を欠き違法である」旨主張するけれども、本件土地はいずれも東京都の近効であり、本件土地を含む附近一帯はいわゆる京葉工業地帯と呼ばれ、工業地、住宅地または商業地として相当長足な発展を見つつあることは、顕著な事実であつて、右事実と本件記録中の各不動産登記簿謄本、相手方ら代理人中島登喜治作成の本件遺産分割調停案に関する書面および原審での鑑定人渡辺清一郎の鑑定書の記載ならびに本件遺産分割についての審判に先立つ調停手続の経過によると、被相続人である山本一郎の相続財産に属する本件農地ならびに抗告人が生前贈与を受けた本件農地は、いずれも、公簿上は田または畑とされているが、本件農地の隣地またはそのごく近くまですでに宅地化されており、附近には農地価額によつて売買がなされた実例はなく、本件農地はいずれも宅地として十分に利用できる状況にあることを認めることができる。もつとも、本件農地を現実に宅地として利用するためには、土留、埋立等の工事その他若干の整地等を必要とするものがあることは、上記鑑定人の鑑定書の記載により明らかであるけれども、右鑑定人は本件農地を宅地見込地として評価するに当り、上記の諸点をも考慮に入れて、本件農地をそれぞれ附近の土地の五〇パーセントないし七〇パーセントとして価額の鑑定を行なつたものであることも、右鑑定書の記載に徴して明らかである。また、本件農地を宅地に転用するためには、県知事の許可を受けなければならないことは、農地法第四条の規定により明らかであるが、このことは上記認定の本件農地の立地条件に照せば、遺産分割のための本件土地の価額算定について、宅地見込地として評価することを不妥当であるとの事由とも認めることはできない。従つて本件農地を宅地見込地として評価することは、合理的根拠に基づくものであり、上記鑑定書の宅地見込地としての評価額は正当な客観的価額であつて、抗告人の主張するように、なんら根拠のないたんなる将来の仮装的見込価額にすぎないものではないから、原審判が上記鑑定人の鑑定の結果の本件農地の宅地見込地としての価額を援用して、相続財産の価額を算定し、これを基本として相続分を定め遺産分割の審判をなしたのは、相当であつて、抗告人の主張は到底採用に値しない。

抗告理由書の三ないし六の抗告理由について。

抗告人は、右抗告理由としてるる主張しているが、その要旨は、「原審判は本件遺産分割に当り、抗告人には宅地一筆のみを取得させ、農地は全部他の共同相続人である相手方らに取得させているけれども、右審判によれば、他の共同相続人らが著しく経済的利益を受けるに比して父祖の農業を承継し祖先の祭祀を主宰しながら、営々として維持管理してきた農地を全部失う抗告人は、営農以外になんら生活手段を持たないので、原審判ははなはだしく衡平を失し正義に反するから、本件遺産分割は、宅地は抗告人居住の家屋は必要な限度を残して他の共同相続人らに分割取得させ、なるべく多くの農地を抗告人に取得させるか、または宅地を全部換価してこれを他の共同相続人らに金銭で配分し、それに見合う農地を抗告人に取得させる等抗告人の農地減少を防止する方法をとるべきである」というにある。

本件記録中の各戸籍謄本、不動産登記簿謄本、上記鑑定人の鑑定書、本件遺産分割調停案に関して当事者双方の各代理人から原審に提出された書面および本件調停手続の経過によると、次の事実を認めることができる。

被相続人山本一郎が相続開始当時有していた相続財産およびその価額は、別紙物件目録記載の一ないし五のとおりであり、右被相続人が抗告人に生前贈与をなしたので、本件相続財産とみなされるものおよびその評価額は、同目録記載の六および七のとおりである。被相続人は抗告人の肩書住所に居住し農業を営んでいたものであるが、抗告人は別紙物件目録記載の一の宅地三二一坪の地上に存在し、本来本件相続財産に含まるべき居宅を取りこわし、昭和三六年頃自己の住家を新築してこれに居住し、妻さくとの間に明男(昭和一八年一〇月二六日生)、典男(昭和二二年一月六日生)、京子(昭和二三年三月二五日生)の三名の子女があり、農業に従事しているものであり、他の共同相続人である相手方ら四名はいずれも早くから他に嫁している。

以上の認定に反する証拠はない。してみると、遺産分割の方法として、抗告人の生活の本拠であり、その居宅の敷地として抗告人が現に使用している右一の宅地の全部または一部を他に嫁した相手方らに取得せしめることが相当でないことは容旨に窺えるところであり、また他の宅地一筆(別紙物件目録記載の二の分)はその価額が遺産総額中に占める割合がきわめて低く、抗告人以外の相続人らの相続分を満すには遙かに遠いのであること算数上明らかであるばかりでなく、本件記録中の遺言公正証書謄本、不動産登記簿謄本および相手方佐藤邦子、同山村春子が原裁判所に提出した各書状によると、被相続人は昭和二八年五月二八日別紙物件目録記載の三の畑を相手方大田亀子に同五の畑を相手方横堀花子にそれぞれ遺贈することとして、その旨公証人に委嘱して公正証書を作成させたけれども、右受遺者らはいずれも本件遺産分割のために右遺贈による権利の主張を差し控えているものであることを認めることができる。さらに、抗告人が本件相続財産とは別に、従前小作していた関係で、いわゆる農地開放により田二反八歩、畑一反九畝五分を国から売渡を受け、これに抗告人が被相続人から生前贈与を受けた別紙物件目録記載の六および七の畑二筆計二反一七歩を加えて、田二反八歩、畑三反九畝二二歩以上合計六反歩の農地を現に所有し耕作していることは、抗告人の自認しているところである。

してみると、本件遺産分割の結果、遺産中の農地を他の相続人に取得させたからといつて、右の一事で抗告人が生活を維持しえなくなるとはまだ認めることはできない。また、相続分の計算からしても、抗告人は自己の相続分を越えてすでに生前贈与を受けたものであり、しかも原審判は上記一の宅地三二一坪を抗告人の取得分と定めているのであるから、抗告人の分割を受ける遺産の価額はその相続分を遙かに超えるものであり、これに反して他の共同相続人である相手方らの取得する遺産の価額はその相続分に不足するものであることは、計算上明らかである。従つて、原審判が抗告人主張のように相手方らのみに経済利益を与え、抗告人に対し衡平を失し正義に反するものであると認めることはできない。

なお、抗告人の主張するように、父祖の業を継承し、農業経営を維持してゆく抗告人のため、本件相続財産中の農地をできるだけ抗告人に取得させ、相手方らには金銭で配分する遺産分割の方法も、抽象論としては考えられないわけではないが、上記一の宅地は抗告人の生活の本拠をなすものであることは上記認定のとおりであつて、これを換価処分することは相当でなく、また抗告人に本件相続財産中の農地の価額に相当する金銭支払の能力あることを認むべき資料は少しもなく、反つて、抗告人も認めているように、抗告人が住家を改築する資金調達のためにすでにその所有する農地一反歩を他に売却している事実に徴すれば、抗告人には上記の支払能力が欠けていることが推認できる。従つて、本件において、かりに抗告人に遺産中の農地を取得させ、相手方らには抗告人から金銭をもつて支払わせる遺産分割の方法を定めてみても、抗告人としてはその所有する農地を他に売却処分しなければならない破目に陥るであろうことが容易に窺える。

本件に顕われた上記認定の諸般の事情を考慮すれば、本件遺産分割の方法として、原審判のとおり、抗告人には上記一の宅地のみを取得させ、農地を含む他の不動産はすべてそれぞれ他の共同相続人らに取得させることに定めたのはもつともなところであり、抗告人の右主張は採用できない。

従つて、原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 杉山孝)

別紙

物件目録

所在場所 地目 地積 価額

一、習志野市藤崎町二丁目○○番 宅地 三二一坪 三、八五二、〇〇〇円

二、同所○○番の三 宅地 一二三坪 五五三、五〇〇円

三、、同市同町一丁目○○○○番の八 畑 一反 二、四〇〇、〇〇〇円

四、同市同町二丁目○○○○番の二 畑 二畝三歩 九四、五〇〇円

五、同市同町五丁目○○○番の二 畑 二反八畝五歩 九、八八六、五〇〇円

六、船橋市田喜野井町○○○番の四 畑 一反二四歩 二、七五四、〇〇〇円

七、同所○○○番 畑 九畝二三歩 二、四九〇、五〇〇円

相続財産(一ないし五)の価額計 一六、七八六、五〇〇円

生前贈与(六及び七)の価額計 五、二四四、五〇〇円

右合計 二二、〇三一、〇〇〇円

別紙

抗告理由書

一、原審判は、相続財産中の農地及び抗告人が被相続人から生前贈与を受けた農地につき、何れも宅地見込地として評価することが正当であるとして、鑑定人渡辺清一郎の鑑定書中宅地見込地としての評価額に従い

相続財産の価格を 一六、七八六、五〇〇円

生前贈与の価格を 五、二四四、五〇〇円

合計 二二、〇三一、〇〇〇円

と評価し、これを相続人五人に配分すれば一人当り四、四〇六、二〇〇円となるから、抗告人は一人当りの配分額より多額の生前贈与を受けているので、もはや相続財産に対し相続分がないという前提に立つている。

二、然しながら、相続財産を換価して金銭配分を行なう場合は別として、本件のように宅地及び農地をそれぞれ現物で分割するに当つては、現物そのままの価格即ち宅地は宅地、農地は農地である現実の姿の現在の価額によるべきであつて、将来の仮想的見込価格によることは合理的根拠を欠き極めて失当といわなければならない。ことに農地が農地法の制約を受けて自由に宅地に変更することの許されない現在、たとえ近辺が宅地化していたとしても現状が農地である以上その正当な客観的価格は依然として農地の価格でなければならない。

そこで、農地については前記鑑定書中農地としての評価に従えば、相続財産の価格は

イ 習志野市藤崎町二丁目○○番

宅地 三二一坪 三、八五二、〇〇〇円

ロ 同市同町二丁目○○番の三

宅地 一二三坪 五五三、五〇〇円

ハ 同市同町一丁目○○○○番の八

畑 一反歩 二七〇、〇〇〇円

ニ 同市同町二丁目○○○○番の二

田 二畝三歩 三一、五〇〇円

ホ 同市同町五丁目○○○番の一

畑 二反八畝五歩 一、〇一四、〇〇〇円

計 五、七二一、〇〇〇円

生前贈与の価格は

イ 船橋市田喜野井町○○○番の四

畑 一反二四歩 三五〇、〇〇〇円

ロ 同市同町○○○番

畑 九畝二三歩 三一六、五〇〇円

計 六六六、五〇〇円

合計 六、三八七、五〇〇円

と評価される。これを相続人五人に配分すれば一人当り、一、二七七、五〇〇円となり、抗告人が受けた生前贈与の額は一人当りの配分額より少額であつて、尚六一一、〇〇〇円の相続分があることとなる。

従つて、抗告人に相続分はないが諸般の事情から宅地三二一坪の取得を認めるという趣旨の原審判はこの点において著しく失当である。

三、原審判は抗告人に宅地のみを認め、相続財産中の農地は全部他の共同相続人に取得させている。されど、他の共同相続人等は何れもその取得農地を耕作することを目的とするものでなく、中には住家を建てるという者もあるが、殆んど値上りを俟つての転売を目的としているに反して、抗告人は被相続人の農業経営を承継し、営農によつてのみ一家の生計を立てている純粋の専業農家である。従つて農地を失なうことは、即ち生計の途を失なうことであり、農業に専念してきた抗告人、妻さく、長男明男は、土方、人夫等の日雇労務者となる以外に生きる途はなく、次男典男、長女京子を合せて一家五名は直ちに悲惨な境遇に顛落しなければならない。

原審判により、他に嫁いだ共同相続人等が著しく経済的利益を受けるに比し、父祖の農業を承継し祖先の祭祀を主宰しつつ営々として維持管理してきた農地を全部失なう抗告人の立場はあまりにも衡平を失し、甚だしく正義に反するものといわなければならない。

四、原審判は、抗告人の営農規模が大きく、本件遺産附近は既に宅地化されているので、遠からず専業農家経営は困難となることが明らかだから、農地を失なつてもやむを得ないといつているが、これは営農以外に何等の生活手段を持たない抗告人に対し甚だしい独断であつて、何等合理的根拠なく到底承服し難いものである。

又、抗告人自身もその所有地の一部を宅地として売却しているともいつているが、それは抗告人一家の住居である家居が腐朽甚だしく補修にも耐えられず、本来相続財産の一部ではあるが既に無価値の状態なので、これを取り毀し新築するためその財源調達の手段として、やむを得ず所有畑中営農上低効率の部分一反歩を売却したものである。従つてそれは営農の基盤を確立するための措置であつて、専業農家経営から遠ざかる現象と理解することは、全く真実に反するものである。

五、抗告人は従前少作していて農地開放により取得した次の農地がある。

イ 習志野市藤崎町三丁目○○○番

田 五畝

ロ 同所○○○番

田 五畝七歩

ハ 同所○○○番

田 五畝七歩

ニ 同市同町四丁目○○○○番

田 四畝二四歩

ホ 同所○○○番

畑 一反五畝一三歩

ヘ 船橋市三山町○○○番の一

畑 三畝二二歩

計 田 二反八歩 畑 一反九畝五歩

これに前掲生前贈与を受けた畑二筆計二反一七歩を加えれば抗告人の所有農地は

田 二反八歩 畑 三反九畝二二歩

合計六反に過ぎない、而かもこの地方は畑作地帯で、麦、野菜の収穫を主体としているのであるから、畑面積の少ないこの状態で一家五人の生活を支えることは至難である。

昭和三七年度における抗告人の農業所得額は三六九、一六〇円であつて、生活費は飯米を除いて最低月三万円、年三六万円を要するから現在既にその生活は手一杯である。而かもこれは右自己所有地と、本件相続財産の農地合計四反八歩、総計一町八歩を耕作した結果である。その反当所得額は三万六、九一六円であるから、自己所有地六反のみの所得は僅かに二二一、四九六円に過ぎず、その生活を維持し得ないことは極めて明らかである。

六、叙上の次第で、抗告人の農業経営を破壊する原審判は甚だしく失当であるから、これを取り消し、宅地は抗告人の家屋所有に必要の限度を残して他の共同相続人に分割取得させ、なるべく多くの農地を抗告人に取得させるか、宅地を全部換価してこれを他の共同相続人に金銭配分し、それに見合う畑地を抗告人に取得させる等、抗告人の農地減少を可及的防止し得る分割方法について再検討を得たく本抗告に及ぶ次第である。

参考

原審(千葉家裁 昭三八(家)一二三〇号 昭三八・一二・五審判 認容)

申立人 佐藤邦子(仮名) 外一名

相手方 山本文男(仮名) 外二名

主文

被相続人山本一郎の遺産を次のように分割する。

(一) 相手方山本文男の取得分

習志野市藤崎町二丁目○○番

宅地 三二一坪

(二) 申立人大田亀子の取得分

習志野市藤崎町一丁目○○○○番の八

畑 一反歩

(三) 申立人佐藤邦子、相手方横堀花子、同山村春子の共同取得分(持分花子二八分の一三、邦子二八分の八、春子二八分の七)

習志野市藤崎町五丁目○○○番の一

畑 二反八畝五歩

(四) 申立人大田亀子、同佐藤邦子、相手方横堀花子、同山村春子の共同取得分(持分各四分の一)

イ 習志野市藤崎町二丁目○○番の三

宅地 一二三坪

ロ 習志野市藤崎町二丁目○○○○番の二

田 二畝三歩

(五) 審判、調停費用は各支出当事者の負担とする。

理由

(一) 相続人

被相続人山本一郎(昭和三七年三月一九日死亡)の相続人は次のとおりである。

イ、申立人 大田亀子 明治四四年八月一三日生

ロ、申立人 佐藤邦子 大正一二年一〇月三一日生

ハ、相手方 横堀花子 大正三年三月三〇日生

ニ、相手方 山本文男 大正六年二月一四日生

ホ、相手方 山村春子 大正九年六月三日生

(二) 相続財産の範囲と評価

本件当事者の供述、登記簿謄本、鑑定書、調停の経過等を総合すると当事者双方が本件相続財産として認むるもの及びその価格は次のとおりである。

イ、習志野市藤崎町二丁目○○番

宅地 三二一坪

価格 三八五二、〇〇〇円 単価 坪一二、〇〇〇円

ロ、習志野市藤崎町二丁目○○番の三

宅地 一二三坪

価格 五五三、五〇〇円 単価 坪四、五〇〇円

ハ、習志野市藤崎町一丁目○○○○番の八

畑 一反歩

価格 二四〇〇、〇〇〇円 単価 坪八、〇〇〇円

ニ、習志野市藤崎町二丁目○○○○番の二

田 二畝三歩

価格 九四、五〇〇円 単価 坪一、五〇〇円

ホ、習志野市藤崎町五丁目○○○番の一

畑 二反八畝五歩

価格 九八八六、五〇〇円 単価 坪一一、七〇〇円

であるが

イ、の宅地は相手方文男が同宅地上にあつた本来相続財産となるべき家屋を取こわし、昭和三六年頃自己の住家を新築し現に使用中であり附近宅地に比較すれば中位のものと認められる。

ロ、の宅地はその所在、現況からして宅地として単独利用には難点があり従つてその価格も附近宅地の三割程度のものと認められる。

ハ、ニ、ホの農地は現在相手方文男が耕作しているが、イ、の畑はすでに隣地まで宅地化されているが、これを宅地として利用するには整地等に相当の工事費が必要であり、これを考慮すれば附近宅地の半額程度の価格のものと認められる。又ニ、の田は他人所有の宅地に隣接しており、宅地として利用しうるが、その地形、埋立にも相当の費用が必要であり、その価格は附近の普通田の半額程度であり、ホの畑は、附近はすでに宅地化しており、かつ、県道にも面しているが、これを宅地とするには、分割する必要があり、それに対する道路敷も考慮すれば、附近宅地の価格より、相当に安値のものと認められる。

以上の点からして本件農地も宅地見込地として評価することが相当であり従つて相続財産の評価額は上記に掲げた金額が相当であることが認められる。

(三) 生前贈与財産及びその評価

当事者双方の供述、鑑定人の鑑定の結果を総合すれば本件共同相続人の中山本文男は被相続人から

イ、船橋市田喜野井町○○○番の四

畑 一反二四歩

価格 二七五四、〇〇〇円 単価 坪八、五〇〇円

ロ、船橋市田喜野井町○○○番

畑 九畝二三歩

価格 二四九〇、五〇〇円 単価 坪八、五〇〇円

を生前贈与を受けている事実、上記畑は附近まで宅地化しており近隣の農地も宅地見込地として売買が行われている実情にありその価格はすでに附近の土地の呼値は一五、〇〇〇円内外であるが、整地排水設備費等を考慮した上記の金額が相当であると認むる。

(四) 相続分

当事者双方はいずれも被相続人山本一郎の子であり、その相続分はそれぞれ五分の一であり

本件相続財産の価格は 一六七八六、五〇〇円

生前贈与の価格は 五二四四、五〇〇円

合計 二二〇三一、〇〇〇円

これを相続人五人に分配すれば一人当り四四〇六、二〇〇円

この結果相手方山本文男は一人当りの分配額より多額の生前贈与を受けているので、同人はもはや相続財産に対して相続分がないこととなる。

(五) 本件分割審判に至るまでの経過

本件は遺産分割の調停事件として申立られたものであるが相続財産の範囲、相手方山本文男が被相続人から生前贈与を受けた財産の範囲については当事者間に争はなかつた。

尤も前掲(二)の項に掲げたハの畑一反歩は申立人大田亀子にホの畑二反八畝五歩は相手方横堀花子に、それぞれ贈与する旨の遺言状(一反歩の畑は以前は三反一〇歩あり、その全部を贈与する旨の遺言状となつているが被相続人が生前その中二反一〇歩を県に売却したため一反歩となつたものである。)があり、そのことは一応主張されたが遺言状の検認、遺言執行者の選任等の手続も経ていないためこれ等も一般相続財産として分割の話が進められた。

分割については申立人佐藤邦子は将来住居を建てるためにと現物分割を希望し、相手方山本文男を除く他の相続人は一応遺言状に記載された畑は現物で、他は金銭で分割してもらいたいと希望したが、山本文男は現物は全部自分が取得し他の相続人には金銭による分割を強く主張した。

そこで調停委員会は相手方山本文男は専業農家であり、相続財産は全部同人が管理している等から、同人の主張に副つて調停を試みたが、金額に大きな開があつて話合がつかず、現物分割の調停案に対しても遂に話合ができず調停は不調に終つた。

(六) 分割事由

相手方山本文男は専業農家であるが農業経営の規模も決して大きなものではなく本件遺産の附近はすでに宅地化されており記録添付の登記簿謄本によれば文男自身もその所有地の一部を宅地として売却している事実も認められるしそれ等の点を総合すれば遠からずして専業農家としての経営は困難となることは明らかである。

従つて現物による分割もやむを得ないところである。

しかも相手方山本文男は前に述べたように相続分を超過する生前贈与を受けており法律上当然に取得すべき相続分はないが同人を除く他の当事者間においては話合ができ、相続分の範囲内において分割の希望意見が提出されているのでそれ等諸般の事情を参酌して主文掲記のようにそれぞれその取得分を定めた。

当審判調停費用については各当事者の自弁とするを相当とする。

よつて主文のとおり審判する。

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